【コラム】周回遅れの私たち

執筆:2021-08-29

もしもこの先

先日、我が家は夏休みを取っていた。今年もウィルスに支配され、きゃあきゃあ遊びまわることはまた叶わなかったけど、近場をドライブをして、あとはひたすら自宅で過ごした。それでもなんだか充実感を得ていたのは、夫と一度も喧嘩することなくずっと穏やかに過ごせたから。もう何度目かわからない二人きりの夏を満喫した。

Mellow
Mellow

夏休み、たのしかった!満足~~

小学生みたいなセリフを言ったら、夫も嬉しそうだった。

Husband
Husband

ずっと二人でも楽しく暮らせちゃうね~!

夫婦になって数年、最近の私たちはいつでもこのフィルタを通してしまう。
もしもこの先ずっと二人暮らしだったら…

家族計画はそれぞれだけど、一般的に私たちは完全に周回遅れだって思っている。だって、プロセスがおかしい。

1.結婚→妊娠→出産
ほとんどの人がこれである。普通である。このあとに育児や進学などライフイベントが続いていく。

2.結婚→???→検査・治療→???→高度生殖医療→高額支払→妊娠
悲しいことに既婚者の12%~15%にはこんな人生もある。

3.結婚→???→検査・治療→???→高度生殖医療→高額支払→妊娠→流産→検査・治療→???
え、つらい、つらい。

3パターン目なんて少々えぐいようだけど、この界隈にはこんな経験をする人がたくさん居るのが現実。不妊治療って、原因のところがブラックボックス過ぎて沼に落ちる。加えて”月経”っていう身体のサイクルのせいで、色々試せるのも、確かめられるのもチャンスは月に1度しかない。長い期間を治療に費やす。また歳をとる。

本当に、産みたいの…?

これを書いている今、我が家はすでに高度生殖医療(ART)を受けるまでに至る。あと少し頑張れば、受精卵を子宮内に移植できるところだ。1度で成功する保証もないし、もっと深い沼に落ちる未来もある。けれど、事実上の”妊娠”だ!と思わず期待してしまうのは、万人に理解してもらえるだろうか?

遠回りを繰り返し、やっと念願の移植が見えてきたっていうのに、私は今こんなことを考えている。

本当に子どもがほしいのかな?

”ふつう”に産んだ人たちを見ていると、感覚が麻痺する。妊娠のマイナートラブル・命がけの出産・自分の時間を失う子育て。私が望む先に待っているものって、それなの?「とうとう、ここまで来てしまった…」と恐る恐るだった治療が「さっさと妊娠して不妊の世界を去りたい」に変わった。「やっとARTができる!」なんて、後ろ向きだった治療を待ち望むまでになっていたのに、ここでまた「苦労してほしいものって何?」ってわからなくなった。

ほんとうに、産みたいの?

感情がぐわんぐわん昇降をくりかえし、もうずいぶん前から自分が自分じゃないみたいなんだ。欲しいのは確実な結果だけ。それが遠すぎて、手元にはリアルしかない。幸せを描く手が止まる。こんなことを嘆く私に、夫はさらりと言った。

Husband
Husband

今は分からないままでいいんじゃない?それより、もしこれが二人で過ごす最後の夏休みになったとしても、後悔しないって思える夏だったなら本当によかったよね!

あー、そうか。この人の子どもを産みたいんだった。

へし折れた私に何度も水をやってくれるこの人の家族を。少し蘇った感情。何度でも原点に帰れるのは、家族の力。何度も繰り返したセリフ、もう聞きたくないけど、諦め悪く何度も言い続ける。「夫婦二人」を卒業する未来を語る。それでいいよね?

来年の夏、どんな風に過ごしているのかなんてわからないけど、この夏に感じた事には残す価値があって、ここに記す。

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